東京高等裁判所 昭和35年(行ナ)36号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕本願発明の要旨は、特許請求の範囲に記載されているとおり、「空気を中央調整装置において予定の熱含量及び湿度に調整する事と、その調整された空気を複数の室の各室内へその室の一位置において放出する事と、進入空気の熱含量の増加に伴い空気速度が減小し又進入空気の熱含量の減小に伴い空気速度が増加するように選択的に作用するように各々の室への進入空気の熱含量及び速度を各々の室において人為的に調節する事とから成る複数の室の各々における加熱及び冷却を個々に調節する方法」にあるものと認められる。そして、本願発明は空気調整方法の改良に関するもので、従前、室内の空気の調整例えば冷却は空気を低温に維持すると同時に室内の空気の過剰な移動を防止するという方法によつていたのに対し、本願発明の場合は、まず最初に中央空気調整装置により空気を調整し、さらに、各室に送られてくる調整された空気を、各室において、進入空気の温度および量により適宜の温度に調節ができるようにしたものであり、この場合、各室における温度の調節は、従前の方法と異なり、各室への進入空気の熱含量の増加に伴い空気速度が減少し、また、進入空気の熱含量の減少に伴い空気速度が増加するように選択的に作用するように各々の室への進入空気の熱含量および速度を各室において人為的に調節する方法により達成する構成、具体的には、各室への空気進入路の一側に加熱装置を設け、ダンパーにより加熱装置を通過する空気と通過しない空気とを適宜制御できるようにし、加熱装置の抵抗を利用して室内に進入する空気全体の熱含量と空気速度との間に上記の関係を生ぜしめる(したがつて、当然に室内に進入する空気量に変更を生ずる。)ようにしたものであることを認めることができる。
被告は、本願発明の特許請求の範囲中の「熱含量の増加に伴い空気速度が減小し熱含量の減小に伴い空気速度が増加する」との文言の意味は、要調和室内に送入される全空気量の増減変更を伴わなくてもよいか、または空気量の増減を考慮に入れなくてもよい趣旨であると主張するけれども、叙上認定の事実から明らかなように、上記文言は、室内を通過する空気全体の熱含量と空気速度(流動割合)に関するものである(特許請求の範囲の記載でも「各々の室への進入空気」と明記している。)から、上記特許請求の範囲中の文言を被告主張のように解することはできない。
三、ところで、第一引用例に、中央調整装置において予定の熱含量および湿度に調整された空気を複数の要調和室に送入するに当たり、各要調和室の放出位置においてその空気速度を人為的に改めて調整して送入することが容易に実施できる程度に記載されていることについては、原告の認めるところであり、本件において原告の争うところは第二引用例についての審決の解釈、認定についてであるから、以下この点につき検討することとする。
1 第二引用例の煖房用「ユニット」は、放出管より放出された空気を低温空気が上層に加熱空気が下層にあるように層状にして室内の遠方にまで放出できるように構成し、これにより経済的かつ有効な暖房を可能にすることを目的としたものと解せられ、右の目的からして、放出管から室内へ放出される空気の速度は、低温空気層と加熱器を通過した加熱空気層とにおいて、できる限りその速度差がないように放出されることが望ましいのであるから、空気加熱器をとくに傾斜状に一列に設け、その部分の通路を広くした前記の構成は、加熱器による抵抗を少なくするためのものと認めるのが相当である。また、前記認定の第二引用例の構成からすると、送風機により空気導入口(3)より一定時間に吸い込まれた空気量と同量の空気が常に放出管(2)より放出されることは明白であり、このことは、たとえ、器筐内の節気板により低温空気層と加熱空気層における空気速度に変更を生ずる場合であつても、全く同様であり、したがつて、室内へ進入通過する全空気量は何らの増減変更を生じないものと認めるべきである。
2 以上に認定したところからすると、第二引用例には、本願発明のように、各室の空気の調整を、進入空気の熱含量の増加に伴い空気速度が減少し、進入空気の熱含量の減少に伴い空気速度が増加するよう選択的に調整して行なうという技術思想は、何ら開示されていないものといわなければならない。
3 被告は、第二引用例において、室内へ放出される空気の速度は、加熱器を通過する空気と通過しない空気とでは、加熱器の抵抗により当然その速度に差を生じ、空気の熱含量と速度とは無関係ではない旨主張する。一般論として、空気が加熱器を通過する場合に加熱器を通過しない場合に比し、抵抗が多く空気速度が低減されることは首肯できるところているけれども、第二引用例にあつては、加熱器を傾斜せしめて一列に配置し、かつ、その部分の通路を広くしてできる限り抵抗を少なくすることにより第二引用例の企図した発明の目的を達しようとしたものであり、この点逆に加熱器の抵抗を利用した本願発明とは異なるものがあり、また、第二引用例において室内へ進入する空気量は一定量であつて、被告主張のような関係を生ずるものでないことは前記説示のとおりである。したがつて、被告の右主張は採用できない。
なお、被告は、空気流の遅速は節気板の位置によつても変わる旨主張するが、第二引用例において、節気板により加熱空気とそうでない空気との間に空気速度の変更を生ずる場合でも、放出管の先端から放出される空気量全体(加熱空気量とそうでない空気量の合計)は変わりがないから、室内へ進入する空気全体の速度と熱含量との間に本願発明と同一の関係を生ずるものではなく、したがつて、被告のこの点の主張も採用するに由ない。また、被告は、本願発明と第二引用例の各図面における加熱器とダンパーの位置関係の類似について云々するが、両者において作用効果を異にすること前説示のとおりである以上理由のない主張といわざるをえない。
さらに、被告は第二引用例に要調和室に送入される全空気量が同一不変であるとしても、部分現象として、節気板により熱含量を大とする加熱器側を通る空気の速度を小とし、熱含量を小とする加熱器側を通らない空気の速度を大とする現象を生ずるから、熱含量の増加に伴い空気速度が減少し、熱含量の減少に伴い空気速度が増加するとの趣旨の記載があると解すべき旨主張するのであるが、本願発明が第二引用例と発明思想を異にすること前説示のとおりであり、単に部分現象的に被告主張のような関係が生じたとしても、室内温度の調節についてこれを利用する技術思想がみられない以上は、第二引用例をもつて、本願発明に容易に転用しうる資料とは認め難い。したがつて、被告のこの点の主張も理由がないといわなければならない。
四、してみれば、審決は第二引用例の解釈、認定を誤つたものというべく、この誤つた解釈、認定に基づき、本願発明は第一引用例のものに第二引用例のものを転用することにより、当業者が格別の発明思想を要しないで容易に考えられる程度のものと判断した本件審決は、違法があるものとして取り消されるべきであつて、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容……する。(柳川真佐夫 武居二郎 楠賢二)